普段はパン屋の開業・運営について情報発信をしていますが、ときどきパン作りも記事にしています。
特に動画は2年前に更新したのですが、今でも観ていただけているみたいでうれしい限り。
ちょうどこれから夏に入るので、今回は「夏の冷蔵発酵」のポイントをまとめていきます。
冷蔵発酵は通年使える製法ではありますが、実は夏は注意することがいろいろあります。
ぜひ普段のパン作りに活用してみてください。
サラッと復習!冷蔵発酵とは
パン作りは”計量・こね・一次発酵・成形・二次発酵・焼成”の順に行います。
通常のパン作りでは1日で全ての工程が完了しますが、イーストを多く使うと独特のイースト臭がすることも。
そこでオススメしたいのが「冷蔵発酵」。一次発酵を冷蔵庫で行うパンの製法です。
一次発酵を冷蔵庫で行うことで、少ないイーストで仕込め、小麦ならではの風味が楽しめるパンを焼くことができます。
同じようにゆっくり発酵するものとしては天然酵母がありますよね。
天然酵母は予め酵母を果物などから仕込んでおき、それを利用してゆっくり一次発酵を行うもの。果物の香りがフワッと香るパンが焼き上がります。
工程としては天然酵母のパン作りも冷蔵発酵に近いものがあります。
違いは……酵母の手軽さでしょうか。
天然酵母でも水を入れておくだけで準備できるものから、自分で果物などから仕込むものをあります。
イーストはそれを全部抜きにして、サクッと混ぜ入れるだけなのが特徴。そして風味もある意味「特徴がない」ので、小麦本来の味を楽しむのにはちょうどいい。
共通する部分としては「一次発酵の時間が長い」ことになります。
少し話が変わりますが、パンの製法に関してはどれが良いとか悪いはありません。
米粉がいいとか、小麦が悪いとかも思うのも全部好み。
みんなに好かれるパンを焼く必要はありません。
みんなちがって、みんないいんです。
小麦って悪者にされるんですが、ぶっちゃけ食べたきゃ食べればいいんですよ。
『自分が食べたいパンを焼く』それでいいんです。
わざわざ何かを悪者にすることはやめて、純粋にパン作りと食べることを楽しんでいただければうれしいです。
夏の冷蔵発酵のポイント
ここからは季節に焦点を当てて解説していきます。
冷蔵発酵は比較的年間を通して生地の状態が安定しています。
なので塩を入れ忘れるとか、イーストを入れ忘れるとか、致命的なミスをしなければよっぽど何かしらは焼くことができます。
ただ、季節によって注意することはあります。
特に夏。これはパン作りにおいて鬼門の季節。生地をいじり始めた時点で発酵スタート。
生地に「ちょっと待ちなさい」とは言えません。
注意するポイントをまとめてみました。
多いわ!って?そうなんですー多いんですー。
ひとつずつ解説していきますね。ただ意外と「そうだよね」と思うことも多いので、サクサクいきましょう。
仕込み水の温度に要注意
これは「そらそーだ」ってやつ。
よく”夏は冷水で”と言いますが、個人的な体感では常温水でもイケます。
正確には「こね終わったらすぐ冷蔵庫に入れれば」ですが。
むしろ冷水を使う場合は少し常温で待機させた方が、翌日の成型のときに扱いやすいかなと思います。
もし「冷水を使いたいんだけど、急いでて早く冷蔵庫に入れたい」とかいう特殊な事情があれば、生地を袋に入れたらタオルで包んで入れてみましょう。しかしその場合は常温水で仕込む方が手っ取り早いです。
タオルに包むことで直で冷風が当たるよりもマイルドになり、発酵がスムーズに行われます。
これ、冬でも同じことが言えます。
冬は冷水なんて使ったら生地がカチコチになるワケですが、温水を使ったとしても結構カチコチになっちゃいます。
なので冷蔵庫に入れるときは生地の上にも下にもタオル。すごーく地味ですが、コレなかなか意味がありますのでぜひ試してみてください。
湿度が上がってきたら調整
水分の量の調整がはじまるのは春頃。体感的にスウェットからちょっと薄手の服に替えたタイミングくらい。
え?わかりにくいです?わたし普段カジュアルなのでそれしか例えがなくてすみませんw
こないだもバンドT買いました。
それはいいとして。
あ、じゃあパジャマにしましょう。ちょっと薄手のものに替えたときくらいをイメージ(意味同じかも)。
そのころになると小麦も水分を吸っており、冬と同じ水分量だと生地がベタつくようになります。水分を10mlくらい減らしてみましょう。
ここからは微調整になりま。日本の夏は基本的に湿度が高いですから、5月中旬から10月末くらいまでは水分量を気持ち減らすくらいでちょうどいいはずです。
こねたらそのまま冷蔵庫へ
冷蔵発酵の生地はこね終わったら6時間から24時間の幅で冷蔵庫で発酵させながら保管ができます。
先ほどの湿気の話にも通ずるのですが、生地の温度と室温によって冷蔵庫に入れるタイミングを変えます。
どんなタイミングかと言われたら体感で感じていくしかないのですが、個人的にはこんな感じ。
「今日は寒いな」と思ったらこね終わって生地を袋に入れたら、室温で20-30分くらい待機させると予備発酵ができます。
逆に冷蔵庫から出すときも同じ。
冬なら冷蔵庫から出してすぐだと生地が冷たいので、30分から1時間くらい室温に馴染ませます。
「生地の温度で早めに冷蔵庫に入れることがある」と覚えておいてください。
二次発酵に追われがち
冬は室温で少し焼く前に待っていてもらえますが、夏はそういうわけにはいきません。
冷蔵庫から出したらそのまま一方通行。
冬ならすべての生地を室温に出してまったり作業できますが、夏は2つくらいの生地しか待機させられません。
なので二次発酵の計算はしておくといいでしょう。
例えばベーグルは室温が27℃程度であれば室温発酵も可能。
38℃の環境なら発酵は30-40分程度ですが、もう少し生地に待っていてもらいたかったら室温発酵。
そうなるといろんな生地の発酵時間の兼ね合いでオーブンをどう回すかを考えることになりますよね。
そんなときはこちらの記事をご覧ください。
パン屋さん向けにメニュー構成から大量の焼き上げについては、note記事も書こうかなと思っています。
焼成前待機はMAX15分
そんな二次発酵が終わり、ふいに生地が渋滞することもあります。
が、発酵器から外待機に変えて20分以上が経過してしまうとどうしても発酵器とは温度が変わりますよね。
焼き上げたときの雰囲気がちょっと変わってきます。
なんと表現したらいいかわからないけれど「元気がない」というか、「活気がない」というか。パンに活気ってなんやねんって話ですが。
なので、焼成前に待機させるならできれば15分まで。やれることは「すべての生地の発酵完了目安を計算する」こと。
どういうことかというと「成型開始のタイミングを見極める」んです。
早く作業を終わらせたいからと焦って成型してもオーブンは1台ですから混み合いますよね。
そうなると生地の待機時間が発生してしまう。
発酵の短いパン、長いパン。
焼き上げの短いパン、長いパン。
これらを組み合わせてベストなタイミングでハマるようにしましょう。
まぁこれもたくさん焼く場合に大切になってきますので、20個未満ならそこまで意識する必要はありません。
材料・メニュー選びのコツ
作業工程の注意ももちろん必要ですが、夏ならではの材料・メニュー選びも意外と大切。
せっかく時間をかけてパンを焼くわけですから、できたら見た目も美味しそうにしたいですよね。
夏に注意していることがこちら。
こちらもひとつずつ解説していきましょう。
溶けそうな材料は入れない
夏は暑い。
なので外にチョコが出ているメニューはこねる工程から様子が変わってきます。
ノーマルなチョコは混ざりながら溶けるのがよーくわかります。
「ああっ!」と慌ててももう遅い。
混ざりに混ざり、マーブル模様。
チョコは馴染むよりもカタチがあった方が食べている感がありますよね。
溶けにくいチョコチップなんかも販売されていますが、個人的にはなんか合成感がある味がしてしまう。
わたしは一年を通してチョコチップはベーシックなものを購入しています。
というわけでチョコを混ぜ込むメニューは、7月から9月終わりまではあまり焼くことはしません。
チョコにも種類がありますよね。キャラメルチョコチップやホワイトチョコは有名どころ。
キャラメルチョコチップは割と溶けにくい印象ですが、成型時にどうしても潰れやすくなります。
ホワイトチョコチップは生地に溶け込みすぎてカタチ自体がなくなります。これね、結構ショック。
中にチョコを入れ込むなら、むしろ常温でもチョコが溶けやすくて美味しく食べることができますよ。
夏は中に入れる系での成型をオススメします。
表面ざらめはベタつく
ざらめのジャリジャリ感はクセになるもの。
夏のざらめは冬に比べて全体的にペタッとなりがち。特に袋に入れるときはもう扱いづらくて仕方ない。
味には大差はありませんが、どうしてもペタペタ感があるので個人的には夏向けの素材ではないなと。
グラニュー糖は比較的一年を通して安定しています。夏はグラニュー糖の甘さを楽しみましょう。
表面塩はなお吸収される
フォカッチャは最後に塩をまぶしますよね。あれ、冬でも時間が経つと生地に吸収されます。これが夏は速度が倍くらい違う。
美味しそうな塩パンが焼けても、時間が経つとポツポツと吸収痕みたいなのが出てなんだか見た目がカッコ悪い。
なのでわたしは夏にシンプル系のフォカッチャはあまりイベントなどで販売しませんでした。
夏は美味しい食べ物がありますよね。
フォカッチャに合わせるなら夏野菜。
ミニトマト、とうもろこし、ズッキーニなど素材の上に塩をかければ生地に吸収されることもありません。
正確には見た目で分からない。
チーズフォカッチャなんかは塩との相性もいいし、これもまた吸収痕も目立ちにくい。
パンを自分のためだけに焼くこともありますが、お裾分けすることも結構ありますよね。
夏はぜひ塩の吸収痕が目立ちにくいパンを焼いてみてください。
メロンパンは湿気りやすい
メニュー選びの最後は「メロンパン」。
メロンパンのクッキー生地には卵、バター、砂糖を使用します。
クッキーという名が付く通り、サクッとした食感がウリ。
夏はメロンパンは結構鬼門。
クッキーはクッキーでも緩めのクッキー生地を使うためベタベタ引っ付くんですよね。
なので5月末くらいから10月初めくらいまではバターの量を気持ち減らしたりします。
これも日によって違うのでなんとも言えないのですが、体感で「だいぶ暖かくなったなぁ」と思ったらバターの量を減らすようにしてください。
クッキー生地の仕込みだけでなく、焼き上げた後もかなり湿気りやすいのですぐ食べるか冷凍保存がおすすめ。
食材保存も夏仕様にしよう
ここまではパンの成型や仕込みのお話をしてきました。
夏に意外と大事なのは「食材の保存」。
特に小麦粉。個人で作られる方はおそらく2.5kgくらいの小麦粉を購入するかと思います。
このくらいの大きさなら問題ないのですが、お店で販売している方は25kgで仕入れますよね。
夏の小麦粉はぜひ冷蔵庫で。
お店の場合はそういうわけにはいかないので、工房内はクーラーをつけるようにしましょう。
長期連休を取る場合は強力粉をジップ袋に入れるなどして冷蔵庫保管がおすすめ。
理由はね……「虫」です。
シバンムシってやつが湧いてきますとアレルギー症状を起こすことがあります。
1匹見かけたら50匹はいると思ってください。
あいつ、Gと同じですよ(気持ち悪ぅ)。
イーストは基本的に冷凍庫での保存をオススメします。
もちろん賞味期限内に使い切るようにしましょう。
食品を仕入れるときは「使う分を購入」。特に夏はこのことを覚えておきましょう。
今回のまとめ
今回はパン作りを趣味にしている方向けに「夏の冷蔵発酵のポイント」をまとめてきました。
ポイントは4つ。
冬の冷蔵発酵がのんびりだった分、夏はそれはそれは追われるパン作り。
難しいのは季節の変わり目ですね。
寒いと思っていたら暑いし、暑いと思っていたら寒いし。
冷蔵庫の温度は一定に保たれていますが、仕込み水の温度が違うだけでずいぶんと変わります。
そういった「自然とのたたかい」みたいなものが好き。
「よし、今日もいい感じだねぇ」とついパンに話しかけてしまうことも。
ぜひね、焼きあがったパンに話しかけてみてください。不思議と美味しさもアップするはずですよ。